34日目 |
昨日は結局 いくら待ってもニンゲンは戻ってこなくて 俺達は 岩場の影に隠れたまま一夜を明かし朝を迎え そしてまた午後になった。 ウェッデルちゃん、疲れちゃったんだな。 なんか全然元気なくなっちゃったもんな。 俺はウェッデルちゃんに 「大丈夫?なんか元気ないみたいだけど…」 と声をかけた。 ウェッデルちゃんは言った。 「大丈夫。 元気がないのは 疲れたせいじゃないの。 あのね、ペンゾー君。 私、一晩考えて、わからなくなってきちゃったの」 ウェッデルちゃんが 話を続けようとしたその時 聞き慣れない足音が響いてきた。 なんだ? 俺は頭の中が真っ白になった。 でもとなりのウェッデルちゃんを見たら どどどどーしたのっ?ウェッデルちゃん! 早くニンゲンに声かけないと 船が出ちゃうよっ? (出ちゃっても俺はいいけど!!) ウェッデルちゃんは 震える小さな声で言った。 「ああ、どうしたらいいのかしら… 私、本当にわからなくなっちゃったの。 この船に 乗った方がいいのかどうか… この船でイイトコ島に帰れるんなら それはすっごく嬉しいんだけど… でも、それって もう二度とペンゾー君に会えなくなるってことよね?」 俺はびっくりした。 こんな大事な時に ウェッデルちゃんが俺のこと考えて 寂しがってくれてるなんて!! 俺は ウェッデルちゃんの手をつかんで この海岸から走り去ろうかと思ったよ。 でもそんなことしていいのか? ウェッデルちゃんは後悔しないのか? 俺は後悔しないのか? ウェッデルちゃんの夢を ここで終わらせちゃって 本当にいいのか? ニンゲンはもう、船出の準備を始めていた。 もう時間がない! 俺は一瞬で心を決めた。 ウェッデルちゃんを 見送ろうって。 だって ウェッデルちゃんの夢に通じる道が いま目の前にひらけてるって時に 俺がそれを壊すなんて! そんなこと出来るわけないじゃないか!! 俺にできることは ウェッデルちゃんの、このめでたい出発を 「おめでとう」ってお祝いしながら 笑顔で見送るってあげることだけなんだ! 俺は夢中でウェッデルちゃんに叫んだ。 「俺、絶対すぐ飛べるようになるから! そしたら毎日イイトコ島に遊びに行くから! だから、これでお別れなんかじゃないよ! 早くニンゲンに声をかけなよウェッデルちゃん! ほら、もう船が出ちゃうよ!」 ウェッデルちゃんは 涙をいっぱい浮かべて俺の顔を見つめた。 そしてすぐに ニンゲンに向かって 一目散に走っていった。 俺は岩場に隠れながら ウェッデルちゃんが必死になってニンゲンに 「連れってって」と頼んでいる姿を 見つめていた。 もちろんニンゲンには ウェッデルちゃんの言葉は通じてないんだけど 気持ちが通じたのか ニンゲン達は ウェッデルちゃんをすんなり船に乗せてあげて 船から落ちないように網をかぶせてあげてから すぐに出発した。 ウェッデルちゃんは ありがとう、って 何度も何度も叫んだ。 俺もいっぱい叫んだ。 「おめでとう」とか「頑張れよ」とか 「すぐ会いに行くよ」とか。 一生懸命、笑顔で叫んだ。 でも俺、ほんとはわかってるんだ。 たとえ俺が飛べるようになっても イイトコ島なんて遠すぎて 行けやしないってこと。 あっというまに 船は見えなくなった。 笑顔で見送ることができたと思ってたのに 気が付いたら俺の顔は 涙でぐしゃぐしゃになっていた。 きっとすっごい顔になっちゃってるよ。 ウェッデルちゃん、見ちゃったかな。 でも見ちゃったかどうかなんて もう聞けないんだ。 もう話もできないんだ。 もう一緒に遊ぶことも 一緒にお魚を食べることも あの笑顔を見ることも なんにもできないんだ。 俺は いっぱい泣いた。 おかしくなっちゃったかと思うほど いっぱい涙が出て 止まんなかった。 ウェッデルちゃんが船に乗れたことを 喜んであげなきゃいけないのに そんな気持ちには 全然なれなかった。 ごめんな、ウェッデルちゃん。 ほんとにごめんな。 次の日記へ |
by penpen-kyoudai
| 2005-10-05 00:50
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